大阪高等裁判所 昭和40年(行コ)40号 判決 1967年9月22日
大阪市北区黒崎町三八番地
控訴人
株式会社 宇治屋
右代表者代表取締役
東三之
右訴訟代理人弁護士
古川毅
同
阿形旨通
大阪市東区大手前之町一丁目一番地
被控訴人
大阪国税局長
高木文雄
右指定代理人検事
上杉晴一郎
同
法務事務官 山本志郎
同
大蔵事務官 下山宣夫
同
勝瑞茂喜
右当事者間の昭和四〇年(行コ)第四〇号所得税審査決定取消請求控訴事件について当裁判所は次の通り判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。控訴人の自昭和三一年四月一日至同三二年三月三一日事業年度の法人税更正決定に対する審査請求につき被控訴人が同三三年六月二六日なした審査請求棄却決定を取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は次に付加するほか原判決事実摘示(誤記であること明かである二枚目表八行目「五二九、九三五円」を「五二、九三五円」と、同一〇行目「再礎」を「基礎」と、三枚目表一行目「推定」を「推計」と、同裏末行「受渡した関係なく」を「受渡しに関係なく」と、四枚目表七行目「表かれた」を「表われた」と、同一二行目「損益計算書等類上」を「損益計算書等書類上」と、八枚目表四行目「認否」を「認容」と、同裏一二行目「殆」を「殆ど」と、一一枚目表末行「帳簿組識」を「帳簿組織」と、一二枚目裏五行目「若千」を「若干」と各訂正する。)と同一であるから之を引用する。
(控訴代理人の主張)
一、控訴人は仕入帳を備えていないが、それは買掛帳を以て兼用させていたからで帳簿の不備と云うことはできない。
二、控訴人が営業上使用したガス料金の一部が控訴人の経費に計上されていないのは、営業所の移転に伴い事実上減量し減額されたものである。
三、控訴人は売掛金請求書の一部を紛失しているが、右売掛金請求書に基き売掛帳の記帳がなされている。
四、修正記帳の多いことはそれ自体正常な記帳に復元されたものである。
以上孰れにしても推計計算を認める事由となるものではない。
(証拠関係)
控訴代理人は当審証人東三之、同東米吉の証言を援用した。
理由
当裁判所は控訴人の請求を棄却した原審の判断を正当と認める。その理由は以下に訂正補充するほか原判決の理由記載と同一(但し誤記と認められる原判決理由記載中、一六枚目表末行「里崎町」を「黒崎町」と、同裏一一行目「技番」を「枝番」と、一八枚目裏八行目「確実性を又き」を「確実性を欠き」と、一九枚目裏三行目「原告」を「原告が」と、同末行及び二〇枚目表一一行目「係管」を「係官」と、二〇枚目裏二行目「直実」を「真実」と、二四枚目裏九行目「位べて」を「較べて」と、二六枚目裏九行目「三一八、九八五」を「三一八、九八五円」と訂正)であるから之を引用する。
一、原判決理由二(1)乃至(5)の認定の証拠として当審証人東三之、同東米吉の証言の各一部と弁論の全趣旨を加え
(一) 原判決理由二(1)を次の通り訂正する。
控訴人は本件事業年度の期首である昭和三一年四月一日から同年一〇月一日迄は日々の現金売上げを各取引ごとに記入した売上伝票を作成し、同年一〇月二日頃金銭登録器が備付けられその記録紙が売上を記録することになつたこと、控訴人が作成した金銭出納簿と買掛帳売掛帳に基いて計理士森本某の補助者訴外東米吉に総勘定元帳、決算書類等の作成を依頼していたところ総勘定元帳により決算書類上算出される本件事業年度の現金売上高は五、二二五、二一三円であるのに売上伝票及び記録紙による売上高は五、二二一、四七九円であり、記録紙売上伝票による売上高と金銭出納帳の日々の現金売上高との間には八〇数回にわたる増減を生じていることが認められる。
このことは原始記録に基かないで記帳がなされていたこと、原始記録の記載が不確実であること、又売上金より適宜現金が取出されていることを示している。
(二) 原判決理由二(5)(原判決一八枚目裏六行目迄)の次に(6)として次の通り追加する。
成立に争のない乙第九号証の一乃至三、原審証人松成直一の証言により成立の真正を認め得る乙第五号証と原審証人松成直一の証言と弁論の全趣旨によると訴外小林武一より昭和三二年一月一二日四八、〇〇〇円、同年三月一〇日八〇、七五〇円の原茶を仕入れた旨の帳簿上の記載はあるが被控訴人より訴外人に発送した照会文書が二回にわたり宛所その他心当りを調査したが判らないとして返戻されており、又訴外藤田六平よりの同三一年七月の七二、〇〇〇円、同年一〇月の四二、五〇〇円の原茶仕入分についてはその仕入の日時を異にし、七二、〇〇〇円については少くとも右藤田よりの仕入でないことが認められる。そして原審証人東三之の証言するごとく、前者について店頭売込にかゝるもので架空仕入ではなく、後者については控訴会社取締役であつた訴外草水正義を介して仕入られたゝめ、仕入日時が異り且七二、〇〇〇円については現実に右藤田以外の者から仕入られたものであつたとしても仕入に関する原始伝票の作成が極めて不確実になされその信憑性が薄いことは否定することはできない。そして右両者の原茶が真実仕入れられたかどうか商品管理上の帳簿面で明かにすることは不可能である。蓋控訴人のように全仕入額の七〇%を農家より原茶のまゝ仕入れ之を店舗と別におかれた倉庫兼作業所で加工製品化し、緑茶煎茶粉茶に仕わけて販売する業態にあつては控訴人のそなえる買掛帳と売掛帳現金出納簿のみを以てしては商品管理の経過を明かにすることはできないからである。(それは又商品勘定による売上原価の算定を困難ならしめるものでもある。)
二、およそ帳簿組織は商企業の規模業種により異るものであり、補助帳簿の如きも重複を避けることが必要であることはもとよりであつて、少くとも収納伝票支払伝票振替伝票が作成され、商品有高の記帳と現金出納帳さえあれば仕入帳乃至買掛帳売上帳すら不要であると極言することも可能であろう。しかしながらそれは原始記録に信憑性があり補助帳簿の記帳が正確になされることを前提とするものであること勿論である。
ところが控訴人にあつては(1)乃至(6)に認定した如く商品有高の記帳なく、取引発生の証明となる原始記録を欠き或はその記載は不確実であり又その保管も不充分であり補助簿の記帳処理も正確でなく、現金管理も充分になされていないし、会社経理と個人経理が混淆していることが認められ、以上の欠陥は帳簿組織相互間の関連から相補つて個々的な修正をなし正確な収支計算をなすことができる程度のものとは認められない。
控訴人備付帳簿によつては正確な収支計算を得ることはできないとして当時施行の法人税法第三一条の四、第二項に則り訴外北税務署長が本件事業年度の所得を推計したことは適法と云うべきである。
三、控訴人は仕入帳は買掛帳が之を兼ねているから仕入帳を欠くことは推計々算を認める理由とはならないと主張する。
勿論仕入帳買掛帳と云つてもそれは仕入取引について掛仕入と現金仕入を区別しているのみであり、唯現金仕入の場合には仕入の記帳のほかに現金出納帳にも記帳されるから総勘定元帳に転記の際両者双方から総勘定元帳の現金勘定及び仕入勘定に二重に転記することを防止するよう配慮すれば足りるのであつて、両帳簿を区別する必要がないことは所論の通りである。要はその記帳が正確になされているか否かにかゝるが、原判決理由二(5)に認定する通り控訴人は期末に二一枚の修正伝票を起票し増田商店に対する昭和三一年六月二五日前渡金四〇、〇〇〇円支払の記帳を買掛金の支払に訂正したほか総勘定元帳の買掛金勘定或は仕入勘定の記帳洩れ、重複記帳を前後二〇回に亘り修正しているのであつて現金仕入買掛仕入の孰れについてもその記帳は正確になされたとは認められない。
四、控訴人は売掛金請求書の一部紛失も売掛帳の記帳がなされているし、修正記帳もそれ自体正常な記帳に修復されたことを意味するから推計々算を認める事由とはならないと主張する。しかしながら帳簿組織が信憑性を有し偶々原始記録の一部が紛失した場合或は総勘定元帳により損益計算をするについて若干の誤謬を発見修正をなした場合なれば兎に角、帳簿組織自体信憑性を欠くこと前説示の通りであるからその主張は採用の限りではない。
五、そして被控訴人主張の推計々算の合理的であること原判決理由三に説示する通りであるから訴外北税務署長の本件更正決定は適法であり従つて右決定を相当と認め控訴人の審査請求を棄却した被控訴人の決定も亦適法であるから本件控訴は理由がないものとして棄却すべく控訴費用負担については民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 松浦豊久 裁判官 青木敏行 裁判長裁判官小野田常太郎は退官につき署名捺印できない。裁判官 松浦豊久)